瀬戸内寂聴
P.45
何ものも「自分のもの」ではない、と知るのが知恵であり、苦しみからはなれ、清らかになる道である。
インド、原始経典『ダンマパダ』一七九より。
若さも、名誉も、金も、家族も、健康も、生命も、いつかは自分から逃げて失ってしまうほかないものである。そう自覚することで執着という煩悩から放たれることが出来る。
P.48
一切の迷いは、皆身の贔屓故に、迷いを出でかしまする。
身の贔屓を離るれば、一切の迷いは出で来はしませぬ。
江戸、盤珪永琢(1622−1693)の、『盤珪禅師法語』上巻より。
私たちが生きているなかで、あれが欲しい、あいつが憎い、これが可愛いと、煩悩に迷わされつづけている。しかしそれも詮じつめれば、すべて自分の欲望を適えたいという自分の可愛さの欲望から生まれたものにすぎない。身贔屓という欲心を捨ててしまえば、すべての迷いは生まれるわけがないのである。生まれた時の何の欲もない心に立ち帰れば悩みから解放される。